TASCA D'ALMERITA
−シチリアの気高き獅子−
シチリアの夏は想像を絶する世界である。まだ6月の下旬だと言うのに、 青空に昇った太陽は容赦なく地表の全ての物を焼き尽すかの如く燃えさかる。 我々は宿泊先のモンデッロのビーチにあるホテルを出発し一路南下して “TASCA D'ALMERITA”目指して車を走らせた。
このワインを口にしたのはもうかれこれ20年以上前になるであろうか。 “REGALELAI BIANCO”、当時にしてみれば日本でシチリアワインにお目にかかる ことは珍しかった、“CORVO BIANCO”を除いては。その当時このワインを 一口飲んで、シチリアでこんなに完成度の高いワインがあることを知り驚愕した。 何十年も思い続けてきた憧れの女性にやっと逢えるそんな想いに似た 胸ときめく心持ちで通り過ぎる景色を車窓から眺めていた。
“TASCA D'ALMERITA”はパレルモとカルタニッセッタの両県境まさに“CUORE DI SICILIA”(シチリアの中心)に位置する。あたりの風景は郊外に出ると 一変する。白茶けた荒涼とした荒野が延々と広がり、目にはいるのは時折見かける オリーブやサボテンの樹くらいである。 かつては緑豊かな楽園だったシチリアも近年気候が変わり、北アフリカからシロッコ (季節風)が吹き荒れ年々砂漠化していると聞く。かつてのマカロニウエスタン さながら、インディアンやカーボーイがいつ現れても可笑しくないそんな景色なのだ。
近づくにつれ徐々に高度が高くなる、とやがて砂漠の中に忽然とオアシスが現れる。 ついに“TASCA D'ALMERITA”にたどり着いたのだ。我々を出迎えたのは大きな 椰子の木であった。まるでメキシコにでもいるかのような錯覚を覚えた。
タスカ家は1830年にここ"サカファーニ"の領地を購入し、この地でワイン生産を 始めたシチリア屈指の貴族家である。 なんでも19世紀の頃、ブルボン家のフェルナンド5世から伯爵の爵位を受けたという。
ワイン生産においては、近代的な醸造設備を早くから導入して 高品質の製品を今日まで作り続けているシチリアではトップリーダー的な存在。 また単なる生産者のみならずシチリア料理、ワインの啓蒙活動にも力を入れ学校も 開設していることはつとに知られている。この地に500haの所有地を持ち、うち360haをぶどう畑としている。ぶどう畑は ゆるやかな起伏のある丘陵地帯にあり、海抜400m〜500mの間に位置し、土壌は 石灰質の粘土土壌である。注目したいのは、このテノワールがシチリアの他と比べ 非常に異なる特徴を備えている点である。 つまりこの地域はミクロクリマの影響を受け、そして葡萄がゆっくりと長い期間を かけて完熟することで、ここで生産される葡萄に傑出した風味と個性を与えている ことである。
またいち早くコンピューター制御の近代醸造システムを導入し、フランス産の オーク樽を一部で使用するなど技術面でも尽力を惜しまず高品質なワインを生産し 続けている。現在の年間生産本数は約300万本で、シチリアでもトップクラスである。
“REGALEALI”の輝かしい歴史は1960年に最初に世に出たワイン“REGALEALI BIANCO /ROSSO/ROSATO”の3本から始まる。当時のシチリアワインのレベルを遙かに 超越した今までにない高品質のワインであった。その後、1970年にシチリア固有品種 を使用して作られたシチリア最高の赤ワイン“REGALEALI ROSSO DEL CONTE”を リリース、さらに1985年にはやはりシチリア固有品種を使用した最高級白ワイン “NOZZE D'ORO”がリリースされた。ともにシチリアワインの常識を破るような 高品質なワインの誕生である。
ただここで満足して終わらないのが“REGALEALI”の「素晴らしさ」「すごさ」 である。“REGALEALI”の真の実力を世界に知らしめるワインを創り出すこと。 それが、1988年の“CABERNET SOUVIGNON”と翌1989年の“CHARDONNAY”である。 ここにシチリアでもトスカーナと変わらない世界市場で認められるワインが 誕生した。
我々が到着するやいなや伯爵家6代目のジョゼッペ・タスカ氏が出迎えに現れた。 伯爵と聞いて最初はかなり緊張していたが、満面に笑みをたたえたジーンズ姿の 彼を一目見てそんな心配も一瞬にして消えてしまった。 しばらく世間話をした後、我々をテースティングルームへと案内してくれた。 テーブルの上には"Regaleali"のそうそうたるラインナップが並んでいた。
最初に"REGALEALI BIANCO"がグラスに注がれ、その後"NOZZE D'ORO"、 "CHARDONNAY"、" ROSSO DEL CONTE"そして"CABERNET SOUVIGNON"と次々と進んだ。 いつも思うことではあるが、現地のセラーで飲むとやはり旨い。 個々のワインのテイスティングコメントについては改めて列記しようと思う。さてテイスティングの後部屋を移り、我々は昼食をご馳走になった。 サラミ・生ハム等の前菜の後に、“空豆のスパゲッティ”そして“子羊の胸肉の トマトソース”。ここで出された豆も皆無農薬、有機のもの、そして子羊も 無農薬の牧草だけで育った物。イタリアでは「無農薬・有機」という考え方は 日本のにわかなブームとは一線を画し、しっかりと農業生産者の間で浸透している ことを実感した。自然との接し方が根本的に違うのだ。
我々が口にした子羊は日本ではまずお目にかかれない美味しさだった。 嫌みのない、柔らかな味、噛めば噛むほどに肉の旨味が広がる。イタリア料理の 奥の深さをも知らされた。帰りがとても名残惜しかったことは言うまでもない。
