イタリアの結婚(2)

前回に続いて、イタリアの結婚式についてご紹介しましょう。
前回は、結婚式にこぎつけるプロセスまでを取り上げたので、今回は結婚式そのもの と、その周辺の事情について。

教会での結婚式の式次第は、ま、ひとことでいえば、日本でやるそれと似たようなも のです(日本が真似しているのだから当たり前ですね)。しかし、神父さんの説教は イタリアの方が断然長い。これは、日本のように建て前でおざなりにやるのではなく 、神聖なカトリックの儀式として行うのだから、当然といえば当然かもしれません。
また、大きな教会には例外なくパイプオルガンが備えられているので、カップル入場 のシーンや賛美歌を歌う場面では、なかなか本格的に荘厳な雰囲気が漂います。こち らでは教会での結婚式は「公開」なので、我々のようなツーリストが教会にのこのこ 入っていって、そんな場面に遭遇するということもしばしばあるわけです。

一方、民事婚の場合でも、簡略ながら儀式らしきものがちゃんと行われます。
イタリアには「仲人」というのがいないかわり、新郎、新婦が、それぞれ証人(ふつ うは親しい友人)を1人立てます。コムーネ(市町村)の役所には専用の部屋があり 、結婚式ともなると、役所の担当者もちゃんと紫色のたすきか何かを身につけた正装 でやってきます。そして、証人の立ち会いのもと、2人の結婚を承認しそれを役所の 帳簿に記載することをコムーネとして確認する旨、事務的な口調で読み上げて、その 後お祝いの言葉などかけてくれるのです。ただし、儀式といってもそれだけのことで 、ほんの15分程度で終わります。賛美歌もなければ神父さんの説教もありません。シ ンプルそのものです。

一番簡単に結婚式を済ませようという場合は、これでおしまいにすることもできます 。実際、最近はこの方式を取るカップルも増えていることはすでに前回見た通り。

しかし、そこは派手好きのイタリア人。結婚は人生の一大イヴェントであって、それ なりに盛大に祝うべきである、と考える人が社会の大半を占めていることは、ここイ タリアでも変わりがありません。大概の場合、やはり結婚式と披露宴にはひと財産つ ぎ込むことになります。
金額は、大体、トータルで2000〜3000万リラ(約150〜200万円)というのが相場のよ う。内訳は、大きいところで、衣装代、披露宴(イタリアには「結婚式場」というの がなく、ホテルも宴会部門は持っていないのが普通なので、大抵はレストランで、と いうことになります)の費用、そして写真・ヴィデオ代といったところ。ちなみに、 引き出物というのは、イタリアには通常存在しません。ともかく、やはりイタリアで も、結婚産業はかなりいい商売に違いありません。

衣装に関しては、もちろん貸衣装もあるにはあるのですが、ウェディング・ドレスは 一生の思い出として取っておくもの、というのがこちらの常識のようで、たいていの 場合、大枚かけて新調することになります(費用はもちろんピンキリですが、やはり 数十万円はかかります)。
披露宴は、日本のように宴会というよりも、レストランでの「お食事会」(スピーチ やカラオケはなし)というのが普通のようですが、田舎の方では今でも、飲めや歌え やのお祭り騒ぎが繰り広げられることもあるそうです。特に決まった結婚式のための メニューがあるわけではありませんが、テーブルに並ぶのは、やはりその地方の料理 の「ハレ」のメニューが多いとのこと。もちろんウェディング・ケーキ(日本のよう な「塔」ではなく、大きく平らで、上にカップルの名前か何かが入った飾り付けがし てあるもの)は欠かせません。

結婚にあたって、きちんと着飾った婚礼写真を撮る、というのはもちろんですが、最 近流行っているのがヴィデオ。しかも、単に結婚式や披露宴の中継だけではなく、ち ゃんと場面設定までしての「イメージヴィデオ」を制作してしまうことも多いみたい です。
実際、パレルモでも、美しい噴水で有名なピアッツァ・プレトーリアという広場では 、何組ものカップルがウェディングドレス姿でヴィデオ撮影しているシーンに出会い ました。これがなかなかすごくて、ちゃんと監督・ディレクターつき。
思わず野次馬根性を発揮して観察してしまったのですが、ディレクターがあれこれ指 示をしては、腕を組んで語らいながら噴水の回りを歩いたり、噴水の前でキスをした り、彼女が噴水の端に寝そべって頬杖をついている横で彼が座ってほほえんでいたり 、というような、見ているだけで恥ずかしくなるようなシーンの連続です(そういう 指示にも、照れもせず嬉々として従っているところが、いかにもイタリア人)。
出来上がりはきっと、ソフトフォーカスがかかっちゃったりなんかして、出演者の「 質」にかかわらずドラマチックで美しい映像になるに違いありません。こういうのに もかなり金がかかっているはずです。

結婚というと欠かせないのが「お祝い」。イタリアの場合、日本と違って、結婚する カップルが事前に欲しい品物のリスト(リスタ・ノッツェLista Nozzeという)を親 戚・友人に配り、彼らはその中から贈るものを選んで買う、という仕組みになってい ます(もちろん、リスト以外の品を自分で選んで贈ることもできますが)。
このリストは、カップルが自分で店を選び、店と相談しながら作るのが普通。選ばれ るのは、食器・調理器具などを扱う店、電器店、寝具やテーブルクロスなどを扱う店 、置物を扱う店などの中から通常はひとつ、多くても二つ(これら全部を扱ういわゆ るデパートは、ミラノ、ローマなどの大都市にしかないので、通常はどれか選ばなけ ればならない)。リストには、贈る人が選べるように、ピンからキリまでの値段の品 物をリストアップするのがルールです。
多くの場合、必然的に、あってもなくてもいいようなどうでもいい品物までリストに 入れざるを得ないことになるので、実際のところあまり合理的な仕組みではありませ ん。しかし、このリスタ・ノッツェに指定されるというのは、店側にとってはいい商 売に違いなく、街を歩いていると、大概のこの手の店のショーウィンドウには「リス タ・ノッツェ承ります」みたいな文句が大書してあります。
いずれにしても、お祝いを贈る側にとっては、どうでもいい残り物や、予定よりも高 いものしか残っていない、という事態に遭遇しないためにも、リストをもらったら素 早く店に行って、さっさと贈るものを決めることが、非常に大切なポイントです。

ある友達が結婚するときに作ったリスタ・ノッツェを見せてもらったことがあります 。彼らは食器など日常使うものは自分で選んで買いたいというので、家電製品だけの リストを作ったのですが、そこには、ステレオ、電子レンジ、掃除機といった日本で もおなじみの品物の間に、電動床磨き機(こちらの家屋の床はタイルか石)のように 、日本では見たこともない機械や、電動チーズおろし機とかサンドイッチトースター とかいったどうでもいい器具まで入っていて、なかなか興味深いものがありました。
訊いてみると、もらった贈り物は、期待していた「大物」よりも、そういうどうでも いい器具の方が多かったそうで(安いから)、結局その手のものは、あまり使うこと もなく、ずっと物置の奥で眠っているそうです。



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