「イタリア男のマザコン度」

「イタリア男はマザコン」というのはよく聞く話です。実際、イタリア語には「マン モーネMammone」という言葉があって、いわば「大人になってもマンマべったりの男 」というような意味で、よく使われています。
とはいえ、このマンモーネ、日本語でイメージする「マザコン」とは、ちょっと違い ます。ひとことでいえば「ラテン系マザコン」とでもいうのでしょうか、あくまでも 明るく無反省にマンマにべったり、という感じなのです。
ある雑誌に、その典型ともいえるケースが載っていたので、ちょっと見てみることに しましょう。

アントニオ・パガーニ、33歳、もちろん独身(彼女はいる)、両親と同居。国営TV局 ・RAI勤務。趣味はディスコのDJとマールボロのパック収集。アルベルト・トンバの ファンクラブに所属し、彼の滑るレースのTV中継は1試合残らずビデオに録ってある ・・・プロフィールだけ見ると、けっこう活動的なフツーの男じゃん、と思うかもし れません。ところが、彼の話を聞いてみると・・・。

「この歳になっても両親と住んでいるのは、純粋にマンマと離れたくないからさ。だ って、朝の3時半に家に帰っても、テーブルの上に暖かいチョコラータ(ココアのこ と)が入った魔法瓶がぼくを待っているなんて、こんなことをしてくれる女性は世界 中どこを捜したっていないよ。
毎朝ぼくを起こしてくれるのもマンマ。ベッドまでカフェ・エ・ラッテ(カフェオレ のこと)を持ってくると、5分ほどぼくを静かにしておいてくれる。それから今度は カフェを持って戻って来るんだ。仕事に行くのに身につけるジャケットやネクタイは もちろん、靴からパンツまでを選んでくれるのも彼女。実際、ぼくがこれまで自分で 買ったものといったら、何枚かのシャツとズボン何本かくらいのものだね。
ぼくはDJが趣味で、15歳のときから始めて、ローマの至るところでやってきたんだけ ど、邪魔されたり文句を言われたりしたことは一度もない。それどころか、夜の2時 半までディスコの外にクルマを停めて、パパと二人でぼくを待っていてくれたものさ 。もう8万6000箱も集めて家中に散らかっているマールボロのパックにだって、文句 ひとついわない。
トンバのレースを録画するのだって、よくレースの時間が変更になってタイマーが効 かなくなるから、ぼくはしょっちゅう家に電話してマンマに言うんだ "エリーリア、 15分経ったらビデオのRECのボタンを押しといてくれない?"。今まで間違ったことは 一度もないよ。
一度ガールフレンドと暮らすために家を出たことはあるんだ。でも地獄だったね。彼 女、ダニエッラのことは今でも愛してるんだけど、一緒に暮らしてるといろいろうる さいんだ。1日に2回シャワーを浴びなきゃダメとか、爪を噛むなとか、たばこを吸 うなとか。2年はなんとか耐えられたけど、結局マンマのところに帰ってきたってわ け」

・・・唖然、でしょう?

イタリア男にマンモーネが多いという、その背景にあるのは、イタリアのマンマと息 子の関係の緊密さであるといわれます。といっても、この関係は、日本のそれ(母親 が子供を思い通りに育てようとし、息子もそれに忠実に応えた結果として精神的な自 立性を失いマザコンになる)とは少なからず異なっているようです。
この間列車に乗っていたら、革ジャンを着て髪を突っ立て、手の甲にタトゥーの入っ たちょっと怖そうなお兄さんが携帯でマンマに電話していました。

「マンマ?チャオ、おれ。うん元気だよ。あと1時間くらいでトリノに着くと思う。 早くマンマの顔が見たいよ。え?夕べ?ミンモとアレッサンドロとラウラとディス コに行ってさあ、夜中の3時までがんがん踊っちゃったよ。ミンモとラウラがすっか りできあがっていちゃいちゃしまくりでさあ、ありゃたぶんその後どっかに2人でし け込んだな。え?おれ?ちょっとかっこいい女の子が1人で踊ってたんで声かけてみ たんだけど、何かつんつんしやがってさあ。ディスコに1人で踊りに来てる女なんて 、気が強くてダメだよ。ヴァッファンクーロ。あ、ところでおばあちゃんは元気だっ た?トリノに帰ったら早速顔出すからって、ちゃんと言っといてくれたよね。じゃあ 、もうすぐ着くから。また後でね。チャオ、マンマ(チュッ、と携帯にキス)」

イタリアの場合、息子にとって母親が一番の友達であり理解者でありパトロンである 、という感じで、どちらかといえば、日本の娘と母親との仲の良さに近いかもしれま せん。密接につながりながらも、お互い、精神的には自立しているところが、日本の マザコン的親子関係との大きな相違点でしょう。もちろん、マンマがあれこれと面倒 を見てくれて、それが息子にとってとても楽ちん、というところは日本もイタリアも 同じなのでしょうが。

一般に、イタリアではむしろ女性の方がより独立心旺盛です。女は家にいるべき、と いう社会的プレッシャーは、他のヨーロッパ諸国と比べると文化的にかなり強いので すが(しかし日本よりはずっと低い)、一旦仕事に就いてしまえば、日本のような男 女差別や賃金格差はありません。そして、多くの場合経済的な理由から、大半の女性 は結婚後も仕事を続けます(特に北イタリアでは)。
そんなイタリア女性は、男性を前にしても、マンマのように、あるいは「よき妻」と して振る舞おうとはしません。むしろ、社会においても生活においても、イコールパ ートナーとしてつきあうことを相手に求めることの方がずっと多いのです。

したがって、イタリアの若い女性たちは、しょっちゅう自分の身の回りにいるマンモ ーネのことを嘆いています。曰く「自分のことが何もできない」、「恋人に母親のよ うに振る舞うことを求める」、「マンマの料理ばかり恋しがる」etc。ま、これは日 本の女性がマザコン男のことを嘆くのと変わらないけれど。
一方、イタリアの男たちはというと、そんなイタリア女の気の強さを嘆いているわけ です。「マンマみたいな女って、ホントになかなかいないんだよなあ」と。
そりゃなかなかいないですよね。



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