「イタリアの意外な顔」

 この何年かの間に完全に定着したようにみえる「イタリア・ブーム」のおかげで、日本にもたくさんのイタリア情報があふれるようになりました。とはいえ、その大半はやはり観光と食べ物とファッションとサッカーに関するもの。今回は、それらとはちょっと違った2つの視点から見たイタリアの姿を眺めてみることにしましよう。

◆世界一の老人国家

 イタリアは世界でただひとつ、15歳以下の人口よりも65歳以上の人口の方が多い「老人国家」です。ちょっと古い数字ですが、1996年の国勢調査によれば、総人口約5700万人のうち、15歳以下が占める割合は約15%(86万人弱)、一方、65歳以上のそれは16%(91万人強)に達しているのです。
 原因はもちろん、出生率の低下と長寿化。イタリア人の平均余命は、男性74歳、女性80歳と、日本ほどではありませんが、世界でもトップレベルの水準にあります。しかし、それ以上に大きいのは出生率の低下の方。女性の社会進出、晩婚化などから、出生率が低下するのは先進諸国に共通した傾向ですが、イタリアのそれは、以前このコラムでも少し触れたとおり、半端ではありません。

 ご承知の通り、イタリアはカトリックの総本山・ヴァティカンを擁しており、ローマ法王はことあるごとに産児制限(や中絶)に反対する声明を発表しています。にもかかわらず、成年女性1人当たりの子供の数は、'95年の時点で何と1.19。日本でも何年か前に1.5を切ったことが話題になりましたが、ここイタリアではすでに「一人っ子」が常識なのです。しかも、'89年には1.30だったものが、'92年には1.25、'95年には1.19と、低下のスピードもかなり急で、この分だとあと10年かそこらで1を切るの ではないかと言われているほどです。都市別で見ると、ボローニャではすでに1を切り0.9まで落ち込んでいます。
 こうなると、高齢化社会の急速な進展は避けられません。今から45年前、1950年と比較すると、総人口に60歳以上の老人が占める割合は12%から21%にほぼ倍増しています。実際、過疎化が進む北イタリアの山間部には、人口の半分以上がオーバー60、という村も少なくないといい、リグーリア州とピエモンテ州の州境には、住民107人のうち80歳以上が47人(44%)を占める超老人コミュニティも存在しているのです。
 今から45年後、2040年のイタリアの人口構成の予想というのもあるのですが、これがもうよれよれ。総人口は現在から2割近く減少し約4750万人。そのうち60歳以上の老人は何と約1940万人(41%)、20-60歳の、いわゆる労働人口よりも多くなる勘定です。こうなると、年金、健康保険といった社会保障制度はほぼまちがいなく破産、現在のシステム自体がほとんど意味をなさなくなることでしょう。
 とはいえ、これは他人事ではありません。世界一の長寿国家・日本にも、遅かれ早かれ、こういう日がやってくる可能性は十分あるのですから。何だか、あんまり長生きしたくなくなる話ですが…。

◆パスタの消費量はパンの半分以下

 イタリア料理といえばパスタ、というのは、もはや「常識以前」ですが、実のところ、イタリアの人々は決して毎日パスタばかり食べているわけではありません。イタリア人のパスタの消費量は、年間1人当たり約30kg。パンのそれ(同約70kg)の半分以下に過ぎないという数字もあるくらいなのです。
 イタリア栄養学会の調査によれば、イタリア人の食生活は、この15年で大きく変化し、より「健康的」になったのだそうです。1人当たりの摂取カロリー量は、1980年の2600カロリーから、95年の2175カロリーに、何と18%もの減少。特に減っているのは、蛋白質、脂肪、糖分の摂取量です。事実、心筋梗塞、心不全など循環器系の疾病も、先進国には珍しく最近は減少傾向。これぞ「地中海式ダイエット」の賜物というものです。
 品目別に見ていくと、摂取量が増えているのは牛肉(年間1人当たり17.2kgから20.8kgへ)、鶏肉(同12.0kgから12.8kg)、そして特に魚介類(同8.7kgから14.4kg)。確かに、シーフードは、最近のダイエット・健康食ブーム(こういうのはどこでも一緒)の主役です(ただし、イタリアでは海草類はほとんど食べません)。沿岸地域を別にすれば、以前は、魚介類は調理に手間がかかる、臭いといった理由で、特に北イタリアではあまり食べられていなかったのです。
 一方、摂取量が減っているのは、牛乳(同71.8lから54.5l)、チーズ(同19.8kgから14.3kg)、卵(同8.6kgから7.0kg)、パスタ(同35.5kgから29.8kg)、砂糖(同11.1kgから6.0kg)、ワイン(同58.8lから28.4l=半分以下!)といったところ。

 パスタの消費量がパンの半分、というのは意外かもしれませんが、日本式に言えば、イタリアではパスタはあくまでも「おかず」の一品であり、いわゆる「ごはん」の役割を果たすのはパンの方です。実際、パスタを食べながらパンに手を伸ばす人もよく見かけますし、パンは食事を通して食卓の上に乗っています。
 それに、もともと北イタリアでは、家庭料理のプリモ・ピアットではパスタよりもポレンタや米の方が日常的なところも少なくありません。もちろん今では南の乾燥パスタも北の生パスタもイタリア中に広まっていますが、特に体重を気にする女性たち(これもどこでも一緒)はパスタを目の敵にしており、ほとんど食べない、という人もかなりいます。ミラノやトリノで、ビジネスマン向けのセルフサーヴィスのレストランなどに行ってみると、ほとんどの女性がサラダとパンと前菜くらいしか食べていないことに気づくはずです。しかし、あれだけパスタを遠ざけているのもかかわらず、彼女たちがデザートだけは決してあきらめないのは非常に不思議なのですが…(これもやはりどこでも一緒か!?)。

 とはいえ、イタリア人にとって心情的にパスタが特別の位置を占めていることは事実。以前、アメリカ政府がイタリアのパスタ輸出をダンピングで提訴した時には、ある新聞が「もしアメリカが本当に“我々のパスタ”をボイコットするというのなら、我々イタリア人はすぐさま1ヘクトリットルのコカコーラを叩き割り、1000トンのビッグマックを海に投げ込んでクリントンに抗議するだろう」という冗談半分の記事が載ったくらいです。

 



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