イタリアのクリスマス

  • A Natale con i tuoi, a Pasqua con chi vuoi(クリスマスは家族と、復活祭 は好きな人と)。
    この時期のイタリアで良く耳にするフレーズです。

  • カトリックの総本山・イタリアでは、クリスマス(イタリア語ではナターレNata leといいます)は、ちょうど日本人にとってのお盆かお正月のようなもの。もちろん 、カレンダー上も12月25日は祝日で、翌日のサント・ステーファノ(聖ステパン、ち なみにフランス語だとサンテティエンヌSant'E'tienne)の祝日と合わせて2連休と なります。クリスマスをはさんだ数日間は、家族はもちろん、普段顔を合わせない親 戚などが、一同に会する機会。これは、宗教的な理由はもちろんですが、日本のお正 月と同じように、もう伝統的にそうなっている、というようなもので、サッカーの試 合さえも、クリスマスを挟む3日間に日曜日が重なったときには、その前後に日程を 移動するというくらいです。そうしないと、哀れなカルチャトーレ(サッカー選手) たちが、クリスマスを家族と過ごせなくなるからです。

  • 日本では、クリスマスのメイン・イヴェントはなぜかイヴのディナー(とその後 の....)ということになっていますが、イタリアでは、25日の昼食(イタリア語では プランツォPranzoと言います)が最大のイヴェントです。午前中、普段はめったに行 かない教会のミサに家族(あるいは一族郎党挙げて)参加したあとに、親子三代が集 まって賑やかな饗宴を楽しむというわけ。地方ごとに典型的なクリスマスのメニュー というのがあって(詳しい解説は寺本氏のSpecialita'に譲ります)、家族挙げてそ れを準備し、持ち寄るということが多いようです。もちろんレストランも、ナターレ 特別メニューを用意して客を待ちかまえます。日本と違って、2時間単位で客を3回 転させるなどという非道いことはしませんが。
    我々も、昨年のクリスマスには、ある友人夫婦のプランツォに招かれました。そこに 集まったのは、親子三代に親戚を含めて10数人。各自が自慢の料理を持ち寄って、お 昼過ぎから夕方6時くらいまで、長い昼食が続きました。身動きできないほど満腹に なったことはいうまでもありません。おばあちゃんの作った「赤いサーディンSardin e rosse」という、塩漬けサーディンのフィレの部分をヴィネガーで洗って、トマト のソースで和えたものがとても美味しかったです。今年も呼んでもらったので今から 楽しみにしています。

  • クリスマスのお菓子、といえば、イタリアでは「パネットーネPanettone」、す なわち、砂糖漬けのフルーツなどが入った、直径20-30cmくらいの大きな丸屋根型の スポンジケーキです。普段はほとんど見かけることがないのですが、クリスマス前の 11月半ばくらいになると、突然店頭に姿を現し、イタリア中で山積みになって売られ ています。イタリア中の菓子メーカーがここぞとばかりに大攻勢をかけるわけです。 値段はひとつ1万5000リラ(約1000円)前後なのですが、クリスマスが近づくにつれ て安売りの札が増えてきて、クリスマスを過ぎたら半額以下の投げ売り状態になりま す。1個の値段で3個持ってけ!などというのもよくあることです。日本のクリスマ スケーキと一緒ですね。
    クリスマスケーキとちがうのは、何故かやたらと日持ちがすることで、1カ月くらい 経ってもカビも生えず、それどころかまだふんわりと柔らかく、美味しく食べられる のです。なにか邪悪な秘密があるに違いないだろう、と思うのですが、これがけっこ うおいしいのでついつい食べてしまいます(アスティ・スプマンテ、モスカート・ダ スティ、ブラケット・ダックイといった甘口のデザートワインには、あつらえたよう にぴったり合います)。でも、この時期はどこの家に遊びに行ってもパネットーネが 出てくるので、最後には辟易してしまうのですが(人によっては、クリスマスが来る 前にもうたくさん、ということになったりもするようです)。
    ちなみに、パネットーネが現在のような丸屋根型になったのは、ほんの数十年前、ミ ラノの菓子メーカー、モッタMotta(数年前までACミランのスポンサーでしたね)が その形で売り出して以来のことだそうです。同社の創業者、ジャンフランコ・モッタ は、このパネットーネひとつでイタリアの菓子王と呼ばれるまでになったという話。 この種の商魂(とそれに乗せられる人の好さ)に関しては、イタリア人はなかなかの もので、4月初めの復活祭(パスクアPasuquaといいます)には、「コロンバColomba 」という、鳩を型どった形の、しかし中身はほとんどパネットーネと変わらないスポ ンジケーキが、巷を席巻するのです(鳩はキリスト教では聖霊のシンボル)。このケ ーキもパネットーネと同じように日持ちが良く、結局飽きるほど口にすることになる のはいうまでもありません。

  • クリスマスというのは、元々キリストの誕生日とされている日であって、建前上 は全員がカトリック教徒ということになっているイタリア人の皆さんにとっては、宗 教的に最も重要な祭日です。でも実際に見ていると、キリスト云々というより、何よ りもまず暦の上で1年の節目に当たる日、といったほうがむしろ近いような気がしま す。彼らがクリスマスを祝う感覚は、ちょうど我々日本人が新年を祝うのと同じよう なものだと考えれば、一番わかりやすいのではないでしょうか。実際、我々が年末に 「良いお年を」というのと同じように、彼らはクリスマスが近づくと「アウグーリAu guri」(おめでとう)とか「ブォン・ナターレBuon Natale」(良いクリスマスを) という挨拶を交わします。知り合いとこの「アウグーリ」を交わすのはもう義務みた いなもので、今日、ぼくの同居人が、家の向かいのクリーニング屋に洗濯物を取りに いったら、店の人から「ナターレの前にちゃんと2人で挨拶に来てね」と釘を刺され たというくらいのものです。

  • クリスマスにプレゼントを贈る、という習慣はイタリアにももちろんあります。 というよりも、イタリアのクリスマス・プレゼント熱は、日本のそれにもひけを取ら ない、といった方がいいでしょう。贈る相手は、家族、親戚が中心で、友人は本当に 親しい相手のみ。この辺にも、クリスマスが「家族」のための機会だという性格が表 れているような気がします。そんなわけで、いわゆる「クリスマス商戦」は、かなり 華々しく展開されます。
    翌月にまたがる11月の最終週から、街は完全な臨戦態勢に入ります。この時期は「ソ ット・ナターレSotto Natale」(直訳するとクリスマスの下、ですが、ニュアンスと してはクリスマス前、という感じでしょうか)と呼ばれ、街の中心のピアッツァ(広 場)には大きなクリスマス・ツリー、日が暮れると薄暗かった商店街には、深夜まで きれいな電飾が灯り、思わずうきうきした気分にさせてくれます。普段はほとんどの 店が休業の日曜日も、この時期ばかりは全店営業。店頭をきれいに飾り立てて買い物 気分を煽ります。香水やジュエリー、時計、シャンパーニュやスプマンテ、そしてお もちゃといった、プレゼント向きの商品の広告が急に増えるのもこの時期ならでは。 1月からのバーゲンと違って、この時期の値札はどこもプロパーですから、一番のか き入れ時ということなのでしょう。
    街頭に物乞いの人々が増える、というのもこの時期の特徴です。クリスマスを控えた 人々の慈悲心に期待して、ということなのでしょうが、これは見ているとちょっと胸 が痛む光景ではあります。

  • ちなみに、サンタクロースというのは、元々オランダの民間伝承がアメリカに広 がったもので、カトリックの「ナターレ」とは本来何の関係もありません(大体、イ タリアにはトナカイなんて居やしません)。サンタクロースの起源になったと言われ る聖ニコラウス(サン・ニコラ)などは、その素性の不確かさから、1969年にカトリ ックの教会暦から外されてしまったというくらいのものです。とはいえ、このサンタ クロース、アメリカから逆輸入されたのか、今ではイタリアでも「バッボ・ナターレ Babbo Natale」(クリスマス爺さん)と呼ばれてそれなりに定着しています。クリス マスにバッボ・ナターレが子供たちにプレゼントを届けてくれる、というストーリー は、子供たちにはもちろん、お祭り好き、プレゼント好きのイタリア人たち、そして 何よりもクリスマス商戦でひと山当て込みたい商売人たちにとって、取って付けたよ うに好都合な話には違いありません。というわけで、イタリアの子供たちも、近年は サンタクロースの恩恵に預かっているというわけです。
    そのかわり、イタリアには1月6日のエピファニーアEpifania(救世主の御公現の祝 日、一般にベッファーナBeffanaと呼ばれる)の日に、魔女が子供たちにお菓子を持 って来る、という民間伝承が昔からあって、今でもこの日に子供たちにお菓子をプレ ゼントする習慣は続いています。クリスマスに加えてベッファーナのプレゼントもも らえるのですから、イタリアの子供たちは幸せですよね。

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