AGRITURISMO 10月の末に日本から友人がトリーノを訪ねて来ることになり、私は2泊3日のピエモンテ 郊外アグリツーリズモの旅をすることにした。
早朝レンタカーを借りてトリーノ郊外を抜け出し、その後北上して最初の訪問地である イヴレア(Ivrea)を目指した。トリーノは京都のように市内を道路が碁盤の目のように 走り、慣れないと少々走りづらいかも知れない。しかし一足郊外へ出ると、道は 遥かかなたのモンテローザを始めとするアルプスの峰々に吸い込まれるように 真っ直ぐと延びて消えていく。そしてアルプスの豊かな自然に包まれ、 いつになく心が和む。
Ivrea
トリーノとアオスタ州境とのほぼ中間に位置するこの町は、ドーラ川沿いに家々の赤い 屋根が広がり静かな佇まいを見せる。 この地方はカナヴェーゼ(Canavese)と呼ばれ他の地域とは少しことなる文化圏を 持ち、その中心地であるのが他ならぬここイヴレアである。
この町はその起源をはるかローマ時代にまで溯るが、その名を世に広く知らしめたのは ここがかのタイプライターで有名な"Orivetti"社の生誕地だからである。
しかし、それ以上に忘れてはならないのが「歴史カーニヴァル」"Carnevale storico" のメインイヴェント「オレンジ合戦」"Battaglia delle arance"。 毎年1月の「主顕節」"Epifania"から「灰の水曜日」"il giorno delle ceneri" までの間に繰り広げられるイタリアで最も有名なかつ危険な祭りの一つと言えよう。 その昔ある粉屋の女主人が残忍な領主を殺したエピソードがこの祭りの主題に なっている。
馬車に乗った兵士達との間で繰り広げられるオレンジの激しい投げ合い、と言うより 馬車の兵士達が投げられるオレンジの嵐に一方的に痛めつけられる展開。 あたりはオレンジの残骸の山とその香しい芳香に包まれ騒然となる。馬上の兵士達は しっかり頭部を兜のようなヘルメットで守られているとは言え"流れオレンジ"が 飛び交い危険この上ないことは確かである。この祭りのために何トンものオレンジが 遥かシチリア島から運ばれて来るそうである。
なだらかな丘のうえにあるドゥオーモや城を見た後、お昼にカナヴェーゼ料理をと 思い適当な店を捜し"Monferrato"の扉を開ける。 メニューを見て迷わずこちらのコース料理を注文する。合わせたワインは"Erbaluce di Caluso"、エルバルーチェ種の白葡萄を使ったCaluso及びIvrea地方で作られる さっぱりとした軽い口当たりの辛口白ワインである。 さて肝心の料理は、フリットミストをメインにした品々が次々と登場する。 すっかりピエモンテ料理に慣れたせいか、近頃品数が少ないと食べた気がしない ようになってしまっている。すでに半分ピエモンテーゼになった証?
La Miniera
その後Ivreaを後にして今夜の宿 Agrituristica"La Miniera" へ向かう。 アウトストラーダを離れて鬱蒼たる樺や栗の生い茂る森の山道を登り詰めると、 小高い台地に行き着く。ここに目指す"La Miniere"があった。山門をくぐると いっせいにUgoをはじめとする犬の群れに囲まれ嬉しい歓迎を受ける。とはいっても 皆とても躾のいい子達ばかりであるからご安心を。Ugoはそのリーダー犬の名である。 このテラスからは、夕闇迫る黄昏のなかモレニカ峡谷(Sera Morenica)を一望に 見晴らすことが出来る。広い敷地内には犬のほかにアヒルやガチョウが我が 物顔に歩き廻っていた。
案内された建物は意外なほどに簡素で隅々まで手入れが行き届いて申し分なかった。 ここは、ベット数わずかに8つ。
そもそも、アグリツーリズモは農家などが自宅を開放してお客様をもてなしてくれる 所であり、ホテルのような快適な設備を期待してはいけないし、またこのように 宿泊者の為のベット数も極端に少ない。
以前友人からこんな話を聞いたことがある。いまだに日本ではトスカーナブームが 続いていて、最近では各種女性誌がアグリツーリズモを取り上げはじめたとか。
そんな風潮に便乗してか、日本の各旅行社がアグリツーリズモのツアーを企画して 団体客をトスカーナへ送り込んだ。しかし、アグリツーリスティカでは そんな大勢の客を受け入れる体制が出来ているはずはなかった。ここで少なからず 軋轢が生じたようで、現地では驚きと批難の声が上がったそうである。
四つ星クラスのホテルに泊り慣れた金満(?)日本人観光客が設備も劣る しかも家族経営のアグリツーリスティカに押し寄せる背景は、私たちが安易に マスコミが作り上げたブームに単に上手く載せられているだけと考える私は 少し穿った見方をしているのだろうか。
しかしそもそもアグリツーリズモの精神とは、都会人に田舎の自然を心から味わって もらい都会生活では出来ない様々な経験(例えば果物狩りやハーブ取り、 トレッキング、マウンテンバイク、カヌーなどの各種アウトドアースポーツなど) を楽しんでもらうことにあると思う。ここ“Miniera”とはイタリア語でそのものずばり“鉱山”を意味する。 この地帯一体は豊富な鉱物資源に恵まれ遥かローマ時代から鉄鉱石の採集地として、 そして近世では産業革命を支える役割を担って来た。 そして今その役割を終えこのMinieraは鉱山所有者の館をアグリツーリズモとして 提供している。
ここもアグリツーリズモの精神にのっとり春から夏にかけては トレッキングやハーブ詰み・アカシアや栗の蜂蜜採集などが、そして秋には 栗拾いや茸採集が体験出来、また予約すれば廃坑見学にも案内してもらえる。 そしてなにより料理上手なロベルタ夫人によるイタリア家庭料理が楽しめ、 教えてもらえる。
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夜は彼女の手作りになる素朴ながら美味この上ない数々の料理が皿を並べる。 昼の料理がまだ半分胃の中に残っている感じではあったが一口フォークを運ぶと 結局最後には全ての料理を食べ終えていた。
ほとんどが彼女の菜園から採れた野菜やハーブを使ったメニューであったが、 とりわけガチョウの黄身だけを使って作った自家製パスタには驚かされた。 今まで、これほど美味なパスタは口にしたことが無かった。 パスタを一つ口に入れてかみ締めるだけでその濃厚な味が胃にまで届きそうな感じ。 この地方の料理についての彼女の話を聴きながら時はいつしか過ぎていった。朝は食堂兼オーナー夫妻の住む館のテラスで、爽やかな涼気のなか 眩い朝日に照らされるモレニカ峡谷の美しい風景を眺めながらウーゴ達に囲まれての朝食。 テーブルにはパンと夫人自らの手作りの各種ジャムや蜂蜜の瓶が並ぶ。どれも果物のもつ フルーティーな味覚が生きていて感激、帰り間際にいくつかをわけてもらう。 会計を済まし、忘れ難い一夜の礼を言ってMinieraを後に今日の訪問地マッジョーレ湖 へと向かった。
次回に続く